空き家を相続放棄したい方へ|手続き・費用・管理責任の全知識

「管理できない実家を相続してしまった…」「遠方に住んでいて、空き家の管理は不可能」そんな悩みを抱えていませんか?負の遺産ともなり得る空き家は、相続放棄という選択肢で手放せる可能性があります。しかし、手続きには期限があり、安易に放棄すると後悔するリスクも。この記事では、空き家の相続放棄に関するメリット・デメリットから、手続きの流れ、費用、そして知らなかったでは済まされない「放棄後の管理責任」まで、専門家の視点で徹底解説します。

親などが亡くなった際に発生する相続ですが、その方法は一つだけではありません。特に、管理が難しい空き家が含まれている場合、どの方法を選ぶかがその後の人生を大きく左右することになります。まずは、法律で定められている3つの選択肢について、基本的な知識を整理しておきましょう。

単純承認は、最も一般的でシンプルな相続方法です。亡くなった方(被相続人)が遺した預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金やローンなどのマイナスの財産も、すべて無条件で受け継ぐことを指します。特別な手続きは必要なく、法律で定められた期間内に何もしなければ、自動的に単純承認したと見なされます。空き家以外に多くのプラスの財産がある場合には有効な選択ですが、負債が多い場合には慎重な判断が必要です。

限定承認は、プラスの財産の範囲内でだけマイナスの財産を相続するという、いわば中間的な選択肢です。例えば、相続財産が「空き家と預金で合計1,000万円、借金が1,500万円」あった場合、限定承認をすれば相続した1,000万円の範囲で借金を返済し、残りの500万円の返済義務は負わずに済みます。借金の額が不明確で、財産調査をしても全容が掴めない場合に有効な方法です。ただし、手続きが非常に複雑で、相続人全員で共同して行わなければならないため、実際にはあまり利用されていないのが現状です。

そして今回詳しく解説するのが、相続放棄です。これは、プラスの財産もマイナスの財産も、その一切の権利と義務を放棄する手続きを指します。相続放棄をすると、その人は法的に「初めから相続人ではなかった」と扱われます。そのため、管理に困る空き家はもちろん、被相続人が抱えていた借金の返済義務からも完全に解放されます。明らかに負債が多い場合や、特定の相続財産に関わりたくない場合に選択される、非常に強力な手段と言えます。

なぜ、多くの人が空き家の相続に際して相続放棄を選ぶのでしょうか。そこには、所有者にかかる重い負担から解放されるという、明確なメリットが存在します。

空き家を所有するということは、その建物を適切に管理する義務を負うということです。庭の草木が伸びて隣家にはみ出したり、害虫が発生して近隣に迷惑をかけたりしないよう、定期的な手入れが欠かせません。

さらに、もし老朽化したブロック塀が倒れて通行人に怪我をさせたり、台風で屋根が飛んで隣の家の車を破損させたりした場合、その損害賠償責任はすべて所有者が負うことになります。相続放棄をすれば、こうした将来にわたる管理の手間と、数千万円にもなりかねない賠償リスクから解放されるのです。

不動産を所有している限り、毎年必ず課税されるのが固定資産税です。たとえ誰も住んでいない空き家であっても、所有者である限り納税通知書は毎年送られてきます。その金額は、建物の評価額や立地にもよりますが、年間で数万円から十数万円にのぼることも珍しくありません。相続放棄をすれば、法的に所有者ではなくなるため、この固定資産税の支払い義務もなくなります。何の収益も生まない不動産のために、ただ税金を払い続けるという経済的負担がなくなるのは、非常に大きなメリットと言えるでしょう。

相続放棄の効果は、空き家だけに限定されるわけではありません。被相続人が遺した財産すべてを放棄するため、もし故人に借金やローン、あるいは誰かの保証人になっているといったマイナスの財産があった場合、それらの返済義務もすべて手放すことができます。空き家の問題と同時に、把握しきれていない借金のリスクからも逃れられるという点は、相続放棄が持つ強力なメリットの一つです。

ただし、相続放棄はメリットばかりではありません。その強力な効果の裏側には、知らずに進めると取り返しのつかないことになる、重大なデメリットやリスクが潜んでいます。

最も基本的なデメリットは、プラスの財産もすべて手放さなければならない点です。相続放棄は「空き家だけを放棄する」といった選択的な放棄は認められていません。たとえ預貯金や株式、価値のある骨董品などがあったとしても、それらを受け取る権利もすべて失うことになります。空き家の管理負担と、他のプラスの財産の価値を天秤にかけ、本当に放棄すべきかを冷静に判断する必要があります。

相続放棄の手続きが家庭裁判所で正式に受理されると、後から「やはり相続したい」と思っても、その決定を覆すことは原則としてできません。例えば、放棄した後に価値のある遺品が見つかったり、空き家の周辺が再開発で価値が上がったりしても、撤回は認められないのです。それほどまでに、相続放棄は重い決断であることを肝に銘じておく必要があります。

自分自身が相続放棄をすると、相続権は次の順位の相続人に移ります。例えば、亡くなった方の配偶者と子が相続放棄をした場合、次は亡くなった方の親、親も亡くなっていれば兄弟姉妹、というように権利と義務がスライドしていくのです。自分が楽になりたい一心で放棄した結果、何も知らなかった親族に突然、空き家の管理義務や借金の返済義務が降りかかってしまう可能性があります。 事前に他の親族としっかり話し合って理解を得ておくことが、後のトラブルを防ぐために不可欠です

「相続放棄をすれば、すべての責任から解放される」と考えるのは早計です。実は、2023年4月に施行された改正民法により、この点がより明確化されました。新しい法律では、相続放棄をしたとしても、「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」は、次の相続人や相続財産清算人が管理を始めることができるようになるまで、その財産の保存義務(管理責任)を負うと定められています。つまり、相続放棄をしたからといって、すぐに空き家を放置して良いわけではなく、最低限の管理を継続しなければならない場合があるのです。この管理を怠って建物が倒壊するなどして他人に損害を与えた場合、損害賠償を請求されるリスクは依然として残ります。

相続放棄をしても、すべてが受け取れなくなるわけではありません。生命保険金や死亡退職金は、受取人固有の財産と見なされるため、相続放棄をしても受け取ることができます。同様に、遺族年金も受給権者自身の権利なので問題ありません。ただし、被相続人自身が受け取るはずだった未支給年金や、高額療養費の還付金などは相続財産に含まれるため、受け取ってしまうと相続を承認したと見なされる可能性があるので注意が必要です。

相続放棄は、自分で行うことも可能です。ここでは、その具体的な手続きの流れを解説します。

相続放棄の手続きにおいて、最も重要なのが期限です。法律では、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」に、家庭裁判所で手続きをしなければならないと定められています。この「知った時」というのがポイントで、通常は被相続人が亡くなった日を指しますが、借金の存在を後から知った場合などはその事実を知った時から3ヶ月と計算されることもあります。この期間は「熟慮期間」と呼ばれ、非常に短いため迅速な行動が求められます。

財産の調査に時間がかかり、3ヶ月以内に相続放棄をすべきか判断できない、というケースも少なくありません。そのような場合は、熟慮期間が終了する前に家庭裁判所に対して「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てることができます。これが認められれば、期間を3ヶ月から半年程度、延長してもらうことが可能です。

手続きには、まず必要書類を集める必要があります。一般的には、被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本や住民票の除票、そして申述人(放棄する人)自身の戸籍謄本などが必要となります。誰が放棄するかによって必要な戸籍謄本の範囲が変わってくるため、事前に家庭裁判所のホームページで確認するか、専門家に相談するのが確実です。

必要書類が揃ったら、「相続放棄申述書」を作成します。この書類の書式は、裁判所のウェブサイトからダウンロードできます。記入事項には、被相続人の情報、申述人の情報、そして相続放棄をする理由などを記載します。作成した申述書は、必要書類とともに、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。

申述書を提出してしばらくすると、家庭裁判所から「照会書」または「回答書」という書類が郵送されてきます。これには、「本当に自分の意思で放棄するのか」「誰かに強制されていないか」といった確認事項が記載されています。内容をよく読み、正直に回答して返送します。この回答に不審な点があると、手続きが進まない場合もあるため注意が必要です。

照会書を返送し、特に問題がなければ家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が送られてきます。この書類を受け取った時点で、法的に相続放棄の手続きは完了となります。もし、被相続人の借金の債権者などから請求があった場合は、この通知書のコピーを提示することで、自分に支払い義務がないことを証明できます。

相続放棄の手続きには一定の費用がかかります。それでは、どのくらいの金額を見込んでおけば良いのでしょうか。

すべての手続きを自分で行う場合、費用は比較的安く抑えられます。まず、家庭裁判所に納める手数料として、申述人1人あたり800円分の収入印紙が必要です。また、裁判所からの書類送付に使われる連絡用の郵便切手代が、数百円程度かかります。これらに加えて、必要書類である戸籍謄本や住民票などを取得するための実費がかかります。 すべて合わせても、1人あたり数千円から1万円程度で収まるのが一般的です

戸籍の収集が複雑であったり、仕事で時間が取れなかったり、手続きに不安があったりする場合は、専門家に依頼するのが安心です。相続放棄は、弁護士または司法書士に依頼することができます。費用は事務所によって異なりますが、司法書士の場合は1人あたり3万円から5万円程度、弁護士の場合は5万円から10万円程度が相場となっています。費用はかかりますが、面倒な書類の収集から申述書の作成・提出まで、すべてを代行してもらえるため、確実かつスムーズに手続きを進められるという大きなメリットがあります。

相続人全員が相続放棄をした場合、誰も所有者がいなくなった空き家は最終的にどうなるのでしょうか。

法律上、相続人が誰もいなくなった財産は最終的に国のもの、つまり「国庫に帰属する」と定められています。ただし、自動的に国のものになるわけではありません。そのためには、後述する「相続財産清算人」が選任され、その清算人が不動産の売却などを試み、それでも買い手がつかなかった場合に、ようやく国庫に引き継がれるという流れになります。このプロセスには、非常に長い時間と手間がかかるのが実情です。

相続放棄後も管理責任が残る場合や、借金の債権者などがいる場合に、利害関係者が家庭裁判所に申し立てることで選任されるのが「相続財産清算人(旧:相続財産管理人)」です。清算人は、弁護士などの専門家が選ばれることが多く、その役割は空き家を含む相続財産の管理や処分、債権者への支払いなどを行います。問題は、この清算人を申し立てる際に、その活動費用や報酬として、数十万円から100万円以上もの「予納金」を裁判所に納める必要がある点です。この費用負担を誰がするのかという問題があり、実際には清算人が選任されないまま、空き家が放置され続けるケースも少なくありません。

前述の通り、2023年の法改正で従来の「相続財産管理人」は「相続財産清算人」へと名称が変わりました。これは、より迅速に財産の清算手続きを進めることを目的としたものです。この改正は、深刻化する空き家問題を解決する一助となることが期待されていますが、相続放棄をしたからといって、すべての問題が自動的に解決するわけではないという現実は依然として変わりません。

相続放棄を考えている場合、特に注意しなければならないのが「法定単純承認」です。これは、特定の行為をすると、本人の意思とは関係なく「相続を承認した」と法律上みなされてしまい、後から相続放棄ができなくなるという制度です。

最も典型的なのが、相続財産を処分する行為です。例えば、良かれと思って空き家を解体したり、不動産業者と売却の契約を結んだりすると、その財産を自分のものとして扱ったと判断され単純承認したことになります。価値のある家財道具を売却したりすることも、同様のリスクを伴います。

故人を偲んで遺品を整理する行為自体は、基本的には問題ありません。しかし、その中で、骨董品や貴金属、ブランド品といった財産的価値のあるものを形見分けとして持ち帰ってしまうと、財産の処分と見なされる可能性があります。あくまで、一般的な衣類や手紙、写真といった、経済的価値の低いものにとどめておくのが安全です。

被相続人の財産から、空き家の固定資産税や滞納していた公共料金、あるいは借金の一部などを支払ってしまう行為も、法定単純承認にあたる可能性があります。これは、相続財産を使って債務を承認したと解釈されるためです。ただし、自分自身の財産から立て替えて支払う分には、問題ないとされる場合もありますが、判断が難しいため基本的には何もしないのが賢明です。

この記事では、管理に困る空き家を相続した際の、相続放棄という選択肢について多角的に解説してきました。相続放棄は、空き家の管理義務や固定資産税、さらには借金の返済義務からも解放される非常に有効な手段です。

しかしその一方で、一度行うと撤回できない、プラスの財産もすべて失う、そして放棄後も一定の管理責任が残る可能性があるなど、重大なリスクも伴います。特に、自分だけが良ければと安易に手続きを進めると、他の親族に多大な迷惑をかけてしまう可能性も忘れてはなりません。

相続放棄を検討する際は、まず「知った時から3ヶ月」という短い期限を意識し、その間に財産の調査をしっかりと行うことが重要です。そして、メリットとデメリットを十分に比較検討した上で、本当に自分にとって最善の選択なのかを冷静に判断してください。

もし少しでも手続きに不安があったり、判断に迷ったりした場合は、決して一人で抱え込まず、弁護士や司法書士といった専門家に相談することをお勧めします。専門家は、あなたの状況に合わせた最適な解決策を、きっと示してくれるはずです。

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