旅行や入院、単身赴任などで自宅を長期間留守にする予定があるとき、「これって空き家扱いになるのかな?」と不安に思ったことはありませんか。見た目には似ている「長期留守」と「空き家」ですが、実はその違いを理解しておかないと、思わぬトラブルにつながることがあります。例えば、郵便物の滞留や草木の繁茂、建物の老朽化が原因で、近隣から苦情が寄せられたり、行政から指導を受けたりするケースも珍しくありません。さらに、防犯や災害対策の観点でも、適切な管理方法をとらなければ被害を拡大させてしまう可能性があります。そこでこの記事では、「長期留守」と「空き家」の定義や違いを明確にしたうえで、それぞれの状態に応じた管理方法について詳しく解説していきます。
長期留守と空き家の違いとは?

「しばらく家を空けている=空き家」というイメージを持っている方も多いかもしれません。しかし、実際には「長期留守」と「空き家」は明確に区別されることがあり、管理上の考え方や法的な扱いにも違いがあります。この違いを理解していないと、必要な対応を怠ってしまい、後から思わぬトラブルに発展することもあります。まずはこの2つの違いについて、一緒に整理しておきましょう。
長期留守は「住む意思のある家」
長期留守とは、持ち主が再び住む意思を持ち、居住する予定のある住宅を一時的に空けている状態を指します。たとえば、長期出張や介護、入院、海外赴任などが該当します。この場合、電気・ガス・水道などのライフラインは契約されたままで、住まいとしての機能は維持されています。生活感が多少なりとも残っている点が特徴で、空き家と比べると劣化の進行も比較的緩やかです。ただし、長期間の不在が続くと見た目は空き家と変わらなくなり、トラブルのきっかけになることもあります。
空き家は「今後も使う予定のない家」
空き家とは、現時点でも居住しておらず、今後も住む予定がない、または未定の状態にある住宅を指します。空き家対策特別措置法では「居住その他の使用がされていない状態が続いている建築物」として定義されており、行政の管理対象となることもあります。典型的な例としては、相続された実家や、退去後にそのまま放置されている住宅などがあげられます。電気や水道が止まっていたり、郵便物があふれていたり、庭が荒れ放題になっていたりするなど、生活感が完全に失われているのが特徴です。放置が長引くと、特定空家に指定され、行政から助言・指導・勧告・命令を受けるリスクも出てきます。
長期留守中に起きやすいトラブルとは?

「住む予定があるから大丈夫」と安心していても、長期間の不在が続くと、住宅にはさまざまなトラブルが発生する可能性があります。日常的に人が出入りしないだけで、家は想像以上に急速に劣化したり、外部からのリスクにさらされたりするものです。特に、長期出張や入院、海外滞在などで数週間以上留守にする場合は、事前の対策を怠ると被害が広がることもあります。しかし実際には留守中のトラブルと聞いても、いまいちピンとこないなんて方も多いかと思います。そこでここではまず、長期留守中によくあるトラブルをいくつかご紹介していきます。
郵便物の滞留で不在が第三者に伝わる
ポストに溜まった郵便物やチラシは、留守であることを如実に物語ります。新聞や広告が何日も手つかずで放置されている様子は、外から見てもひと目で分かり、「この家にはしばらく誰も戻っていない」と判断される材料になります。これが空き巣や不審者にとっては格好の目印となり、侵入や器物破損などの被害を招く恐れがあります。また、郵便物が風で飛散して近隣に迷惑をかけたり、重要な通知が受け取れずに失効してしまうといった二次的なトラブルにつながる可能性もあります。不在が長期化するほど、このリスクは高まります。
換気不足によるカビや湿気被害
窓を閉め切った状態で人の出入りもない家は、空気の流れが止まり、湿気が室内にこもりがちになります。このような環境が続くと、特に押し入れや家具の裏、壁の隅など風通しの悪い場所からカビが繁殖しやすくなります。梅雨や冬場の結露シーズンには、被害が一層深刻になり、壁紙が変色したり、木材や床材が湿気を含んで劣化するケースもあります。さらに、カビの臭いがこびりつくことで、室内の空気環境そのものが悪化し、住み心地の低下を招く原因にもなります。数週間の放置でもこうした問題が発生することがあるため、留守中の建物内部は常に劣化リスクにさらされているといえます。
排水トラップの乾燥による悪臭や害虫
台所や浴室、トイレなどの排水口には、本来下水の臭気や虫の侵入を防ぐために封水(トラップ)が存在しますが、人の出入りがない状態が長く続くと、この水が蒸発してしまいます。その結果、下水道からの強い悪臭が室内に逆流し、部屋全体に不快なにおいがこもってしまいます。また、下水経由でコバエやゴキブリ、小型の害虫が侵入しやすくなるため、たとえ建物が密閉されていたとしても、屋内に虫が湧いてしまうケースがあります。室内に入った害虫は家具や壁のすき間に入り込み、繁殖することもあるため、たった数週間の不在でも深刻な衛生トラブルにつながることがあります。
地震や台風などによる被害の見落とし
不在中に自然災害が発生すると、建物に損傷が生じてもすぐに気づくことができません。たとえば、地震による壁のひび割れや傾き、台風による屋根瓦の飛散、窓ガラスの破損などがあっても、誰も確認する人がいないために放置され、被害が時間とともに拡大してしまうことがあります。また、瓦が落ちて通行人に危害を加えたり、雨漏りによって屋内の構造材にカビや腐食が広がったりするなど、二次被害を引き起こすリスクも見逃せません。災害の多い日本では、こうしたタイミングで無人の住宅が致命的なダメージを受けることも少なくありません。
空き家状態で起きやすいトラブルとは?

一見するとただ人が住んでいないだけの家でも、「空き家」として放置された状態が続くことで、さまざまな深刻なトラブルが発生します。長期留守とは異なり、住む予定のない空き家は管理や手入れの頻度が極端に減るため、家そのものの劣化だけでなく、地域社会や隣近所への悪影響にまで波及するのが特徴です。老朽化が進むほどリスクも複雑化・多様化し、最終的には重大な損害や法的責任につながるケースも。ここでは長期留守中のトラブルに続いて、空き家だからこそ起こる可能性のある代表的なトラブルを紹介していきます。
建物の老朽化と倒壊リスク
人が住まなくなった建物は、日々の換気や掃除、修繕といったメンテナンスが行われなくなり、急速に老朽化が進みます。屋根や外壁が劣化し、ひび割れや破損が目立ち始めるだけでなく、柱や土台などの構造部分も湿気やシロアリの影響で腐朽しやすくなります。築年数が古い空き家では、強風や地震によって部分的に、あるいは全面的に倒壊する危険も考えられます。建物倒壊によって通行人や隣家に被害を与えた場合、所有者が責任を問われることもあるため、放置すればするほどリスクが高まるトラブルです。
放火や不審火による火災
空き家は人目が届かないため、不審者の侵入や放火の標的になりやすいという危険があります。特に夜間は暗がりに紛れて侵入されやすく、窓やドアが壊れていれば簡単に中へ入ることも可能です。また、家財道具やゴミなどが残されていた場合、それが可燃物となって火が広がりやすく、大規模な火災へ発展するおそれもあります。火災は一度発生すると、空き家だけにとどまらず、隣接する建物や森林、農地へも延焼することがあり、非常に深刻な二次被害につながるトラブルです。
害虫・害獣のすみかになる
空き家は人の気配がなく静かで、雨風もしのげるため、ネズミ、ハクビシン、アライグマなどの害獣や、ゴキブリ、ハチ、ムカデなどの害虫が繁殖しやすい環境になります。とくに屋根裏や床下、壁のすき間といった目につきにくい場所に巣をつくられ、長期間放置された結果、大量発生してしまうケースもあります。また、害獣によって断熱材や木材が破壊されたり、糞尿によって異臭が発生したりすることで、建物の衛生状態が著しく悪化し、住める状態に戻すには大がかりな清掃や修繕が必要になることもあります。
草木の繁茂と景観悪化
庭や敷地の草木は手入れされないまま成長し続けるため、雑草が生い茂り、樹木が隣地や道路にはみ出してしまうことがあります。視界を遮るほどの草木は、通行の妨げになったり、野良猫や害虫の隠れ家になったりするなど、周囲にも悪影響を及ぼします。また、手入れのされていない外観は地域全体の景観を損ない、「治安が悪そう」「管理されていない場所がある」という印象を与え、空き巣や不法投棄のターゲットにもなりやすくなります。単なる見た目の問題にとどまらず、地域コミュニティとのトラブルにも発展しかねない点もリスクとして知っておく必要があります。
不法侵入や不法占拠のリスク
空き家は外部から「使われていない建物」として認識されやすく、不審者による不法侵入や、不法占拠といったトラブルも現実的な問題です。ドアや窓が壊れている場合には簡単に入り込まれ、寝泊まりされたり、ゴミを不法に持ち込まれたりすることもあります。中には、権利を主張して居座るような悪質なケースもあり、立ち退きを巡って訴訟沙汰になることもあるため注意しなければいけません。また、侵入者が事故や火災を起こした場合、所有者が責任を問われる可能性もあり、放置された空き家がもつ社会的リスクの高さが浮き彫りになります。
長期留守と空き家はそれぞれどう管理すべき?

長期留守と空き家は似ているようで、必要とされる管理方法には大きな違いがあります。どちらも「人が住んでいない家」ではあるものの、再び住む予定があるかどうか、短期的な不在か恒久的な放置かといった点が、管理方針に大きく影響します。適切な管理を怠れば、トラブルの発生や建物の劣化を早め、資産価値の低下にもつながるおそれがあります。ここでは、長期留守・空き家それぞれにおいて実施すべき管理方法のポイントを詳しく見ていきましょう。
長期留守中の管理は「日常を維持する意識」がカギ
長期留守では、基本的に将来的に再び住む予定があるため、「住まいとしての機能」を維持することが管理の主目的となります。電気・水道・ガスなどのライフラインはすべて止めるのではなく、必要に応じて最低限残しておくことが望ましいケースもあります。換気や通水、簡単な清掃なども定期的に行うことで、カビや排水の臭い、害虫の発生を予防できます。また、郵便物が溜まっていると不在が明白になり空き巣の標的になるため、ポストの管理も忘れずに行うことが大切です。家族や近隣の協力者に定期的に様子を見てもらう体制を整えるのも重要です。
空き家の管理は「安全と劣化防止」が最優先
空き家の場合、住む予定がない状態で長期間放置されることが前提となるため、建物の安全性を保ちつつ、劣化を最小限に抑えることが管理の要となります。特に注意したいのは、屋根や外壁、雨樋などの外回りの点検です。劣化が進んで落下や倒壊のおそれがある場合は、早急な補修が必要です。また、庭の草木が伸びすぎて隣家に越境したり、虫や動物の住処になったりしないよう、定期的な除草や剪定も不可欠です。空き家管理サービスなどを活用し、遠方からでも管理できる体制を整えることも一つの手段です。
防犯対策は両者に共通して必須
人が住んでいない住宅は、どんな形であっても空き巣や不法侵入のリスクが高まります。長期留守でも空き家でも、防犯意識を高く持ち、侵入されにくい環境を整えることが重要です。具体的には、窓やドアの施錠の徹底、防犯カメラやセンサーライトの設置、シャッターや格子の活用などが有効です。特に空き家の場合は、明らかに使われていない様子が外から見えてしまうと、犯罪の標的になりやすくなります。見た目をある程度整え、「管理されている家」という印象を与える工夫も効果的です。